さなぎ日記:あさなぎクリニック心療内科のブログです。こころの健康、コミュニケーション、おいしいお店や、映画のことも。

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うつ病について 心の病か脳の病か

うつ病について 心の病か脳の病か サムネイル画像
精神医学には二つの流派があります。「こころの病」に注目する一派と、「脳の病」(バイオロジカルな失調)」に注目する一派です。もともと日本は、「脳の病」派が主流でした。これは、ドイツ精神医学の立場で、正常と異常の間には質的な断絶があり、心理的葛藤によって了解できないものだとされていました。学生の頃は、この考えが主流でした。うつ病は治療しなくても自然に治る病気だと教わりました。 ・「うつ病は、全体的に、...全文を表示
精神医学には二つの流派があります。


「こころの病」に注目する一派と、「脳の病」(バイオロジカルな失調)」に注目する一派です。

もともと日本は、「脳の病」派が主流でした。これは、ドイツ精神医学の立場で、正常と異常の間には質的な断絶があり、心理的葛藤によって了解できないものだとされていました。

学生の頃は、この考えが主流でした。うつ病は治療しなくても自然に治る病気だと教わりました。

 ・「うつ病は、全体的に、治療の有無にかかわらず、最終的には回復する予後が最良な精神状態の一つです。ほとんどのうつ病は治療しなくても長期的には回復します」 by ジョナサン・コール アメリカ国立精神衛生研究所(NIMH) 1964年

 ・「(ほとんどのうつ病は)特別な治療をしなくても事実上完治するという経過をたどります」 by ディーン・シュイラー NIMH・うつ病部門長 1974年

 ・「抗うつ薬が回復期間の短縮に役立つ可能性はあっても、長期回復率の上昇には役立たない」

 ・「数ヶ月以内の自然回復率が50%を越えるため、各種治療法の有効性の判断は難しい」

医者になりたての頃もそう考えていました。

そこに、アメリカ風の考えがジワジワと日本に入り込みました。フロイト等の精神分析派考えです。彼らはうつ病を、バイオロジカルな脳の病気ではなく、神経症の延長線上の疾患だと考えました。

心の葛藤や、子供の頃の親子関係などが重要で、その過程で身につけてきた性格を振り返ることで、考え方の歪みに気づきそれを克服することでうつを治す、という考えです。

それまでは、日本では「うつ病」あるいは躁うつ病というと、とても重い精神病と捉えられていたので、よほど重篤でないと精神科を受診しませんでした。

アメリカ風の考え方によって、日本人の精神科に対する偏見は減り、精神科受診に対する高かった敷居は下がりました。これは良かったと思います。

その後本家アメリカで、精神分析に関する半旗が翻ります。DSM(「精神障害の診断と統計マニュアル」byアメリカ精神医学会)

LSDなどのドラッグカルチャーの台頭によって、精神疾患の背景に脳化学物質の変調があるのではないかという考えがその背景にありました。

(とはいうものの、精神病の原因が判明しない段階では、ドイツ流の原因に基づいた分類はできないので、現在の症状を横断的に調べて分類するという操作的な診断基準になりました。ですが、あくまでも原因はバイオロジカルなものだと考えられていたのです)

その後、1988年にフルオキセチン(プロザック)というSSRIが発売されて、爆発的に使われ、

1990年代の「脳の10年」と言われた脳研究の発展とも相俟って、ゲノム解析によって、精神病の原因が分かるという楽観論が生まれましたが、

ゲノム研究の進行によって、精神疾患は単一の遺伝子により精神病が発症するわけでなく、遺伝と環境の相互作用によってなるという従来の考えに戻りました。

日本で初めてSSRIが発売されたのは1999年のフルボキサミンでした。欧米より10年遅れたわけです。日本人は精神病に対する抵抗が極めて強いので、欧米と同様の販売戦略は効果的ではないと判断したからです。

そこで、日本ではうつ病を体の病気だとする販売戦略が取られました。そのキャッチフレーズが「心の風邪」です。これがうつ病の治療へのハードルを劇的に下げて、うつ病で精神科を受診する人は激増します。

加えてそれを後押ししたのが、電通事件(2000年判決)です。

裁判によって、過重労働によってうつ病になって自殺したと認められたのです。これによって、

うつ病は、大きなストレスに晒されれば誰もが罹る病だといういう考えが日本中に広まったのです(医学的な判断ではなく、裁判所がそう判断しただけなのに)。現在でも、うつ病のストレス仮説が主流です。

この考えは、うつ病は正常と連続していて、はっきりした区別はない、という考え方です。

その流れがストレスチェック制度につながっています。

ところが、そこまでうつ病を広げてしまうと、「うつ病」という診断の中に雑多な原因の病態が含まれてしまい、抗うつ薬が効かなくなってしまいました。

そこで、最近では「うつ病」と診断された中にも、本当の病気と、そうでないものがある、というような苦しい言い方をしなくてはいけなくなりました。うつ病と診断されていなくても、薬物治療する方がいい場合もあるとか。

というように、うつ病の診断は今なお混乱しています。
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精神医学には二つの流派があります。


「こころの病」に注目する一派と、「脳の病」(バイオロジカルな失調)」に注目する一派です。

もともと日本は、「脳の病」派が主流でした。これは、ドイツ精神医学の立場で、正常と異常の間には質的な断絶があり、心理的葛藤によって了解できないものだとされていました。

学生の頃は、この考えが主流でした。うつ病は治療しなくても自然に治る病気だと教わりました。

 ・「うつ病は、全体的に、治療の有無にかかわらず、最終的には回復する予後が最良な精神状態の一つです。ほとんどのうつ病は治療しなくても長期的には回復します」 by ジョナサン・コール アメリカ国立精神衛生研究所(NIMH) 1964年

 ・「(ほとんどのうつ病は)特別な治療をしなくても事実上完治するという経過をたどります」 by ディーン・シュイラー NIMH・うつ病部門長 1974年

 ・「抗うつ薬が回復期間の短縮に役立つ可能性はあっても、長期回復率の上昇には役立たない」

 ・「数ヶ月以内の自然回復率が50%を越えるため、各種治療法の有効性の判断は難しい」

医者になりたての頃もそう考えていました。

そこに、アメリカ風の考えがジワジワと日本に入り込みました。フロイト等の精神分析派考えです。彼らはうつ病を、バイオロジカルな脳の病気ではなく、神経症の延長線上の疾患だと考えました。

心の葛藤や、子供の頃の親子関係などが重要で、その過程で身につけてきた性格を振り返ることで、考え方の歪みに気づきそれを克服することでうつを治す、という考えです。

それまでは、日本では「うつ病」あるいは躁うつ病というと、とても重い精神病と捉えられていたので、よほど重篤でないと精神科を受診しませんでした。

アメリカ風の考え方によって、日本人の精神科に対する偏見は減り、精神科受診に対する高かった敷居は下がりました。これは良かったと思います。

その後本家アメリカで、精神分析に関する半旗が翻ります。DSM(「精神障害の診断と統計マニュアル」byアメリカ精神医学会)

LSDなどのドラッグカルチャーの台頭によって、精神疾患の背景に脳化学物質の変調があるのではないかという考えがその背景にありました。

(とはいうものの、精神病の原因が判明しない段階では、ドイツ流の原因に基づいた分類はできないので、現在の症状を横断的に調べて分類するという操作的な診断基準になりました。ですが、あくまでも原因はバイオロジカルなものだと考えられていたのです)

その後、1988年にフルオキセチン(プロザック)というSSRIが発売されて、爆発的に使われ、

1990年代の「脳の10年」と言われた脳研究の発展とも相俟って、ゲノム解析によって、精神病の原因が分かるという楽観論が生まれましたが、

ゲノム研究の進行によって、精神疾患は単一の遺伝子により精神病が発症するわけでなく、遺伝と環境の相互作用によってなるという従来の考えに戻りました。

日本で初めてSSRIが発売されたのは1999年のフルボキサミンでした。欧米より10年遅れたわけです。日本人は精神病に対する抵抗が極めて強いので、欧米と同様の販売戦略は効果的ではないと判断したからです。

そこで、日本ではうつ病を体の病気だとする販売戦略が取られました。そのキャッチフレーズが「心の風邪」です。これがうつ病の治療へのハードルを劇的に下げて、うつ病で精神科を受診する人は激増します。

加えてそれを後押ししたのが、電通事件(2000年判決)です。

裁判によって、過重労働によってうつ病になって自殺したと認められたのです。これによって、

うつ病は、大きなストレスに晒されれば誰もが罹る病だといういう考えが日本中に広まったのです(医学的な判断ではなく、裁判所がそう判断しただけなのに)。現在でも、うつ病のストレス仮説が主流です。

この考えは、うつ病は正常と連続していて、はっきりした区別はない、という考え方です。

その流れがストレスチェック制度につながっています。

ところが、そこまでうつ病を広げてしまうと、「うつ病」という診断の中に雑多な原因の病態が含まれてしまい、抗うつ薬が効かなくなってしまいました。

そこで、最近では「うつ病」と診断された中にも、本当の病気と、そうでないものがある、というような苦しい言い方をしなくてはいけなくなりました。うつ病と診断されていなくても、薬物治療する方がいい場合もあるとか。

というように、うつ病の診断は今なお混乱しています。
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